修験道究極の奥義・柱源神法

修験道の柱源神法 はしらもとしんぽう と柱松 修験道では室町時代中期になる石上神宮の神宮寺である内山永久寺に伝わる『峰中 ぶちゅう 灌頂 かんじょう 本軌 ほんき 』に 修験道独自の修法である「柱源神法」に関する切紙が納められている。この柱源神法は天然自然の原 理、万物能生の理を明らかにして、宇宙万象の和合の根源を表示する作法である(16)。この柱源の「柱」 は宇宙万物の柱をさし、「源」は天地陰陽和合の本源を示すとされ、宇宙の形成や修験者の天と地を結 ぶ柱として再生を示す儀礼がなされている。その修法壇(図9「柱源神法の法具」参照)は中央の壇 板(天地陰陽未分を示す以下括弧内にその意味をあげる)の上の奥に鼎状の水輪(天地、陰陽和合 の場所)を置き、その中央の穴に金襴に包まれ赤い房がついた閼伽札 あかふだ (修法者自身を示す)、その両脇 の穴に黒い布に包まれた乳木 にゅうぼく (金剛界・胎蔵界、父・母)をいずれも自由にとりはずしが出来るよ うに差しこんでおく。そして水輪の手前には穴があって水が灌げるようになっている。水輪の左右に は花皿(榊の葉が入れられている)、前には舎利器 しゃりき (飯器-米を入れる)、その手前には独鈷、左右に は杓と蓋がついた閼伽器(水が入っている)が置かれている。修法座の左脇机には柄香炉・小刀・火 箸・小木など、右脇机には肘比 ひじころ と箇 打木 うちぎ (ともに小丸太)・打鳴などがおかれている。 修法全体は1「導入」、2「床堅 とこがため 」、3「柱源」、4「護摩」、5「終結」の部分に分けることが出 54 来る。まず1「導入」で、修法者が本尊に帰依し菩提心を開く。2「床堅」では修法者が肘比と箇打 木を打ちあわせ、両者を腰にあてることによって、自分は大日如来と同じ五大を備えた仏ゆえ、成仏 が可能であると観じる。修法の中心をなす3「柱源」の前半部では、まず閼伽器の水を中央の水輪に 灌いで「天地の潤水ここに至る」と唱える。そして天地の水が交わることによって父母が生じること が観じられる。次に水輪上の2本の乳木をとりはずして虚心合掌した両掌にはさむ乳木作法によって、 胎児が生じることを示す。この胎児は修法者と金剛界・胎蔵界の種子を記した中央の閼伽札に象徴さ れているように、大日如来と化した修法者を示している。後半部に入ると修法者が宇宙そのものを示 す大峰山でこの修法を行なうことによって、即身即仏の境地に達したとの啓白をする。そしてこのこ とを確信するかのように今一度さきの乳木作法を行なったうえで、2本の乳木を水輪上に返して不動 明王の慈救の呪を唱えながらその胎児の成育に欠くことが出来ない水と米を供えている。これはこの 成育が不動明王の助けのもとに行なわれていることを示している。4「護摩」は修法者が煩悩を焼尽 することによって大日如来として再生することを示す作法である。そして最後の5「終結」では、中 央の柱を虚心合掌した手にはさんで、自分が大日如来(宇宙)として再生したことを示すとともに、 万物が仏性を持つことを確認している。 このように修験道の柱源神法では、混沌の状態から天地が形成され、天地の合体により父母、その 父母の和合により修法者が仏として再生することが演じられている。しかもこうして再生した修法者 は、水軸中央の閼伽札(柱)によって象徴されている。そしてこの柱は天と地を結ぶ軸であるとして いる。それ故この柱源神法を行なうことによって修法者は自分が天と地を結ぶ軸となったと観じてい るのである。